Home / 恋愛 / 運命のような恋だった / 二章 「突然の別れ」

Share

二章 「突然の別れ」

Author: 桃口 優
last update Last Updated: 2025-08-25 04:12:53

 放課後一緒に作業をするようになり、私たちの関係は少しずつ変わっていった。

 学校に着くと「おはよう」と毎日挨拶をするようになり、今では休み時間に時々足を止めてお話をするようになった。

 仲よくなれたことは、素直に嬉しかった。

 少し前まで声をかけることでさえめちゃくちゃハードルが高いように思っていたけど、きっかけとはどこに落ちているか本当にわからないものだ。

 でも、彼への思いがさらにふくらんでいくのと比例して、彼が私とお話をしている時どんなことを感じているのか気になるようになった。

 楽しく感じてくれているのか、それともの他の感情なのか。 

 私といて楽しく感じてくれていたら嬉しいけど、それは相手の感情だから私にはどうすることもできない。

 そうだとわかっていても、彼には楽しい気持ちでいてほしかった。

 私にできることは、もっと楽しめるように様々なお話をするぐらいだろう。

 でも、それも何がいいかわからないから、余計に悩んでしまう。彼の好きなことをもっと聞いておけばよかったと少し後悔が押し寄せてきた。

 仲が良くなることはいいことしかないけど、〝異性の友だち〟という枠には入りたくないなと私は強く思っている。

 異性の友だちという関係性を完全には否定しないけど、私には今までそんな人がいないからどんな存在か想像ができない。

 そして、私はただ仲良くなれればいいわけでない。

 私は彼のことが好きで、この思いを叶えたいのだから。

 一方で、誰かに好かれるほどの魅力が自分にあるようにはあまり思えなかった。

 私は、自分に自信がないから。

 好かれたいと願うけど、たぶん叶わらないだろうとも感じてしまう。

 反対の気持ちがいつも心の中にある。

 それに私の行動によって二人だけの放課後の時間がぎこちないものには絶対にしたくない。あの時間だけは私にとって希望のようなものだから。

 結局、私はどうしていいかわからなくなってしまった。

 次の日。

 教室で彼の姿を見つけることができなかった。

 彼はいつも私より先に教室にいる。きっと時間ぎりぎりの私と違って、余裕をもって学校につくようにしているのだろう。 

 彼がいないことが寂しいなと感じた。

 風邪を引いたのかなとも思ったけど、なんだかその考えはピンとこなかった。

 どうしてだろう。心がざわざわする。

 先生が教室に入ってきて、ホームルームの時間となった。

 「佐々木シオンくんが、昨日転校しました。寂しくなりますが、今日も学校生活をしっかりしていきましょう」

 彼に会えなくなる?

 先生の言葉が、私の頭の中でぐるぐると繰り返されている。

 そんな話、彼から聞いていなかった。

 そして、その言葉は、私の心の半分をすごい勢いで奪っていった。

 それほどまでに、私にとって彼の存在は大きかった。大きいことはわかっていたけど、これほどの割合を占めていたことに私は今まで気づいていなかった。

 涙が、頬をゆっくり濡らしていった。

 ホームルームが終わった後、私はすぐに立ち上がることができなかった。 

 身体全身で拒否反応を出しているような感じ。

「佐々木くんの転校には驚いたけど、転校理由はなんだったのかな?」

 クラスメイトの声が遠くから聞こえてきた。

 私はその話を聞きながら「彼に何かあったのかな」と頭の中でなんとか考えることができた。

 でも転校理由がわかったところで、私はきっと彼の力になれない。

 そもそも彼の力になる前に、私はまだまだ子どもだから色々なことを一人でできないから。

 彼を探すことも、見つかったとして会いに行くことにも、お金がかかる。

 私の小遣いじゃ、全然足りないと思う。

 さらには、自由に使える時間にも制限もある。

 家じゃないどこかで宿泊することを親は許さないと思う。そもそも学校には毎日行かなきゃダメだから毎日彼を探すことはできない。

 もし困っているなら彼を今すぐ助けたいのに、私には何もできない。もやもやが心にどんどんたまっていく。

 私は自分が子どもであることを恨んだ。

 こんなに会いたいのに、現実には何一つできることはないから。

 突然、彼が転校したことは運命なのかもと感じた。運命にはいいことしかないと思っていたけど、そうではないかもしれない。

 元から私と彼は今日で会えなくなる運命だった。

 でも、もしかしたらまたどこか出会える運命にあるのかもしれない。

 今の私はただただそうだと信じたかった。

 彼は今どこで何を思っているのだろう。

 彼も戸惑っているかもしれない。今苦しい思いの中にいるかもしれない。

 もし私に話すことで、少しでも彼の気持ちが軽くなるなら私は聞くことを全く面倒だと思わなかった。

 スマホでメッセージを送ろうとしたけど、手が震えて文字を打つことができなかった。

 私は、彼のことが自分の想像よりもかなりショックで弱っていた。

 そして辛いかもしれないというのは私のただの推測だ。もしかしたら新しい場所で楽しもうと思っているかもしれない。

 それなら前の場所でのことをわざわざ思い出させるべきではない。

 何もわからないから気持ちはぐらぐらと揺れて一向に定まらない。

 短い期間とはいえ、二人にとって私たちの間に生まれた関係性って何だったのだろう。

 ただこんなお別れは寂しすぎることだけはわかる。

 彼がしているSNSも知っているけど、どんなことを書いているのか怖くて、それすら開くことができなかった。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 運命のような恋だった   十四章 「ある夜のもう一つの物語」

     これはある日の夜のちょっとしたお話。「晴がまだ知らないお話は、この世界にはたくさんあるのよ。その中で、パパとママの出会いのどのお話を今日はしようかな」 私は絵本を読むかのように感情を込めて手振りも入れて、一言一言をゆっくりと話している。 晴は布団にくるまりながら目をらんらんとさせている。 なぜ二歳の晴に読み聞かせをしているのかというと、少し前にたまたまぐずって寝なかった時に、まだ意味はわからないだろうけど私と彼のお話を少ししてみたところすぐに寝たからだ。 私と彼のお話には、癒しの効果があるのだろうか。 そうだと嬉しいなあ。 もちろん、それだけではなく私たちの運命のお話を子どもにも話したいし、数年後理解できる年齢になったらどう感じたかも聞きたいからでもある。 よく寝た日から、読み聞かせは毎日している。〝知育〟というよりは遊びの延長線上だと私は感じている。 意味は全てわからなくても、にこにこしながら「かっこいい」とか「かわいい」と晴なりにその時感じたことをいつも教えてくれる。 晴は彼に似て、賢いのかもしれないと親バカによくなる。そして、いつも幸せな気分に浸っているのだ。「今日はパパがママに愛の誓いをした日の話にしよう」「あいの、ちかい?」 晴は不思議そうな顔をしていた。「愛の誓いとは、晴が今日ママと一日いたように、パパがママのそばにずっといたいと言ってくれたことよ」「ぼくとおなじー」「そうだよ。パパはその日いつもよりかっこいい服だった。そして、キラキラした指輪を見せて、ママに言ってくれたの。〝一緒に幸せになろう。茉白、結婚してください〟って」「パパ、かっこいい」「でも、ママはえーんえーんしちゃった」「えーんえーん」 晴は、泣くことをえーんえーんといつも言う。「ママは悲しかったわけじゃないの。ただ心がぽかぽかと温かくなってえーんえーんしたのよ」 私は胸に手を当ててゆっくりとなぞった。 晴は小さな手で私の手をよしよしとさすってくれた。 その優しさに私はまた泣きそうになったけど、なんとかこらえることができた。 晴はどうして泣いているかわからないから、泣いたら余計に晴に心配をかけてしまうから。「パパにそう言われて、ママは〝うん。一緒に幸せになろうね〟と言ったの。そして、」 途中で晴が寝てしまったので、私は話すのをやめた。

  • 運命のような恋だった   十三章 「運命が結ばれる」

     私は彼の元まで勢いよく走っていった。 彼は振り返って、私の目をじっと見てくれた。 なんだか甘い雰囲気が漂っている。 この感じ嫌いじゃない。「シオンのことが忘れられなかった」 彼は突然〝シオン〟と呼ばれて少しびっくりしているようだった。 私は今までそう呼んたことがなかったから。 今再会できても、そう呼ぶつもりは最初はなかった。 でも、彼を見つけて気持ちがかなり高ぶった。その勢いのまま呼んでしまった。 今も心臓がバクバクしている。 彼はまた出会えたことにかなり驚いているようだけど、それよりも顔に嬉しさがにじみ出ていた。 私には彼の感情が簡単にわかる。 彼がわかりやすい性格なのではない。私たちは運命でつながっているからだ。「自分から別れを告げたのに、婚約者にも彼と別れたと言ったのに、それでもシオンのことが頭に浮かんで離れなかった。だから今さっき婚約破棄してきた」 私は恥ずかしさを捨てて、全て話した。「僕もあれからずっと安藤さんのことが頭から離れなかった」 彼は何も否定せず私を受け入れてくれた。「ねぇ、〝茉白〟って呼んで」 私は甘えた。 人に甘えることはこれまでほとんどしてこなかったけど、急に彼に甘えたくなった。 甘えるのって恥ずかしいけど、幸せな気分になりそうだから。いや、もうすでになっている。「あっ、うん。茉白のことを僕も忘れた時なんてないよ」 私は彼を思いっきり抱きしめたくなった気持ちをぎゅっと抑えた。 まだ私にはちゃんと伝えないといないことがあるから。「数日前にふってしまってごめん。一方的にひどいことも言った」「謝ることじゃないよ」 彼は優しく包みこんでくれた。また私はぬくもりを感じた。 このぬくもりをこれからは大切にしたい。「そうかもしれないけど、申し訳なく思っているからちゃんと謝らせて。本当にごめんなさい」「はい」 彼はあえてかしこまって受け止めてくれた。 本当に敵わないなと思う。「シオンのことが大好きです。シオンのことで頭がいっぱいなの。私と付き合ってください」「僕も茉白のことが大好きだよ。僕でよければこれからもよろしくね」 やっと運命が結ばれた。   私はこうなることを、子どもの頃からずっと望んでいた。 自分の気持ちに正直になり、運命を諦めなくて本当によかった。 涙がまたこぼれてき

  • 運命のような恋だった   十二章 「私たちの未来」

     彼と別れてから数日後のことだ。 今、卓也さんの元に私は向かっている。 数日では彼と別れた心の傷は癒えないけど、それを待っていたら何ヶ月後になるかわからないから。 それだと、婚約の日取りも過ぎてしまう。 私の決断を無駄にするわけにはいかない。 私は涙の跡を消すかのように、化粧をいつもより厚く塗っている。 そのぐらいであの涙の量を隠せるかわからないけど、しないよりはましかと思っている。 卓也さんが見えたので、私は少し走った。 まるで彼の真似をするかのようだと思った。待っている人は彼ではないのに、私は何をしているのだろう。「待たせてごめん」「大丈夫だから」 卓也さんは走る私の姿を見ても、特に特別な反応はしなかった。 彼ならきっと変化に気づいてくれる。 そんな事を考えても、もう彼には会えないのにと虚しくなった。 いや、私の中から彼が全然いなくなっていない。こんなじゃあだめだ。 断ち切らなきゃ。 私はゆっくり深呼吸をした。「卓也さん、彼とは別れ、もう会わないことにしました。心配かけてごめんね」「私のことを選んでくれたんだね。ありがとう」 卓也さんは少しだけ驚いた顔をした後で、私のことをぎゅっと抱きしめた。 卓也さんの驚いた顔は久々に見た。大抵のことは動じない人だから。 私が卓也さんを選ぶことは、卓也さんにとっても意外なことだったのだろうか。 抱きしめられているところが暖かくて心地がいい。 心地よさは、彼との思い出を運んできた。 今思えば、彼とはプラトニックな関係だった。抱きしめ合うことも、手を繋ぐごとさえ一度もしたことがなかった。それでもいつもぬくもりを感じていた。 純粋な恋心だけで二人の関係は成り立っていた。 私はいつの間にか彼のことで頭の中がいっぱいになりかけていた。 どうしてこんな時に思い出すのだろう。 運命や現実を超えるものは見つからなかったと、思いに蓋をしようとする。  もう終わったことだ。 今更何も変えることはできない。 卓也さんにも今伝えたばかりだ。卓也さんといる時に彼のことを思い出すなんてあまりにも残酷だ。 現実なんて嫌いだ。 このまま彼のことで頭の中をいっぱいになってしまう。 そうしたら、私は⋯⋯。 思いに蓋をすることはできなかった。 心がどうしようもないぐらい惹かれている。身体が彼

  • 運命のような恋だった   十一章 「運命の選択」

     私は待ち合わせ場所に向かった。 今日、私は彼と会う。 私の気持ちは、今卓也さんに傾いている。 傾いているけど、まだ迷いがある。 運命で足りないのであれば、何があればいいのだろう。 もし彼と会い、運命、そして現実を超えるものが見つからなければ、今日彼にお別れの言葉を言う。 それぐらいの覚悟がないとすぐに揺らいでしまいそうだから。 もう二人の間でふらふらしない。「今回は、一番初めに行ったカフェなんだね」 彼はそう言いながら、私の隣りまで走ってきた。 急いで私のもとに来るワンコのような彼の姿を見て、私は自然と笑顔になっていた。「そうだよ。佐々木くんとの再会の場所だからね」 私は小さな嘘をつきながら、店内に入っていった。 本当は再会した後で、一番彼に心がときめいた場所だからだ。「僕たちの運命が再び動き出したところかな」 彼はそう言いながら、顔を少し赤くして向かいの席に座った。「前も思ったけど、言って顔を赤くするなら言わなきゃいいのに」 私は笑いながら、ツッコんだ。「いやだってさ、なんかかっこよく言いたいじゃん」 彼は子どものように頬を膨らませていた。 彼の意外な一面をみて、胸が弾んだ。 まだまだ知らない彼がいると思うと別れを考えるのが惜しくなってくる。「なにそれ、おもしろい」  今私は自然と笑っている。 この場所にいることがすごく心地がいい。 彼といると、会った瞬間からずっと楽しい。こんなことってあるだろうか。 もちろん、卓也さんといる時間も楽しい。でもなんというかジャンルが違う気がする。 卓也さんといる時は安心感に包まれた楽しさで、彼といる時は驚きにあふれた楽しさだ。 どちらも楽しいことに変わりはない。「佐々木くんにとって、恋愛ってどんなもの?」 運命を超えるものを探すために、私はあえて彼にとってドキッとする質問をした。「うーん、思う人に尽くすことかな」 彼はまっすぐと私の目を見つめてきた。 私はいつの間にかふぅーっと息を吐いていた。 その息を吐いてすぐに、これは私がリラックスしている時にする行動だと気づいた。 私は今心からリラックスしているようだ。 彼といると私が私らしくいられる。 そして、彼の答えを聞いて、私は彼に惹かれる理由がやっとわかった。 彼は、かつての私だ。 似ているとかそういう

  • 運命のような恋だった   十章 「深い愛情に触れて」

     私は卓也さんとデートに行くことにした。   デートといっても、主に彼と会っていたことを話すのだから、相手にとってあまり楽しいものではないだろうけど。 気は重いけど、しっかり話さないといけない。これは避けてはいけないことだ。「少し待たせたね」 卓也さんの格好はオフィスカジュアルだった。卓也さんは仕事以外の日もいつもしっかりとした服装をしている。 身長も180センチと高く、落ち着いた雰囲気だから、そういう格好が本当によく似合う。 服装ってその人にとって似合うものがあり、卓也さんはそれをしっかり理解している気がする。「今日はちょっと話があって、デートに行こうと言ったの」 私はお店に入るなり、話を始めた。「話? 何か悩みでもあるの?」 卓也さんは、心配そうな顔を私に向けた。 彼の細い手が私の手に触れる。 そんな視線や態度は、胸に刺さり痛い。「いや、そうじゃなくて⋯⋯。実は、私最近子どもの頃好きだったけど思いを伝えられなかった人にたまたま出会ったの」「うん、それはいいことだね」 卓也さんは態度を変えず、話を聞いてくれている。「その後も、数回彼と会った」 私は頭を少し下げた。「久々の再会だから、そんなこともあるんじゃないかな」 ホットコーヒーを飲みながら、卓也さんはゆったりとしている。 いらだったりしている様子はなく、落ち着いている。「問題なのは、私がまだ彼のことを好きだという気持ちがあったことなの。卓也さんという人がいるのに、気になる人と何回も会ってごめんなさい」「だから、最近いつもと雰囲気が違ったんだね」「そう、だったかな」 卓也さんは私の変化に気づいていた。 それでも私に何も言ってこなかった。 それはどうしてだったのだろうか? 私は結構焦っていた。「私は、茉白がこうやって話しくれたからもう構わないよ」「えっ!? 何も言わないの?」 私は卓也さんの言葉に目をぱちりと開いた。長いまつ毛が少し揺れた。 私がそれをしたのだけど、そんなに簡単に許されることではない気がしていたから。 どうして何も言わないのだろう。 確かに卓也さんは心がかなり広い。 でも、さすがに婚約をしているならしちゃいけない行為だと冷静になった今ならわかる。 私は完全に浮かれていた。 卓也さんのことを全然考えていなかった。「私は、今の話

  • 運命のような恋だった   九章 「揺れる心」

     彼ともっと話したいという気持ちと私には婚約者がいるということの狭間で私は揺れていた。 ゆらゆら揺れている私はきっと悪い女だろう。 一層のこと、子どもの頃好きだった気持ちを言ってみようか。 ただ、今も思っていることは話さない。 それで彼が困った反応を示したら、少し彼のことも諦めがつく。 私は覚悟を決めた。 もし今の気持ちがバレてしまった時は、自分の感情に従おう。「私ね、子どもの頃、佐々木くんのことが好きだったんだよ」 恥ずかしくて、かみそうになった。 彼は一瞬驚いてから、私の目をまっすぐ見て「僕も子どもの頃、安藤さんのことが好きだったよ」と言った。 〝子どもの頃〟という言葉がなければ、今二人とも告白していることになる。 胸がドクンドクンしている。 彼といるとときめいてばかりだ。 恋にときめきは必須なものだと私は考えている。「あの時、告白していれば運命が変わっていたかな。でも、今は僕が追いかける恋になったみたいだね。間に合うかな」と、彼は私の左手の薬指に目を移し冗談交じりに笑った。 私は思いもよらぬ展開に、正直頭がついてきていなかった。 彼は今も私が好きだとはっきりと伝えてくれた? 私の小賢しい作戦は失敗に終わったばかりではなく、予想外の方向に進んでしまった。 でも早く何か言わないと、気まずくなる。「もぅ、佐々木くんは冗談がうまくなったね」となんとか返事を返せた。 でも、告白めいたことを婚約指輪をつけた私にするのは、どうしてだろう。彼はどこまで本気なんだろうか。いや、婚約者がいるのに他の男性と会っている私の方が断然中途半端で、おかしいから何も言えない。 だけど、私は〝婚約指輪〟という言葉を口に出すことはできなかった。彼との今の関係が一瞬で粉々になりそうだから。 私は一体何をしているのだろう。 彼は少し考えているような顔をしていた。「じゃあさ、テレビ電話をしてくれた時、本当は何を伝えようとしてくれたかぐらいは教えてくれる?」 当時は特に何もなかったからと言ったけど、彼には気づかれていたようだ。「あの時は、校外学習が無事終わったことをどうしても直接伝えたかった。でも本当は、寂しくて佐々木くんの顔が見たかったの」 当時の気持ちがもう知られているから、私はそんなに答えにくくはなかった。「そうだったんだね。出れなかったの

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status